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2009年7月23日
フローズンバナナダイキリ的ブレークスルーもしくはグレイトなカクテルあるいはワイキキの風
私、熊本店に勤めます須郷は、既にベスパに在職すること12年目となります。長く勤めれば
技術が常に積み重なり多層化するわけでもないのですが、本物に近づくきっかけを目にする
ことは多くなってまいります。先日、と言いましても2ヶ月ほど前のお話ですが、あるカクテル
に関する7年来の疑問が氷解し、素晴らしいブレイクスルーを経験する事ができましたので
少々お話をしてみたいと思います。
2ヶ月前のその時も、やはりフローズン・ストロベリー・ダイキリだったのですが、私がストロ
ベリー・ダイキリを作っている最中にわが師より指摘がありました。いや、フローズン・ダイキ
リはこうだ、と云うような。技術的な内容は分かりづらいので端折りますが、私の今までの、
まあベターですよね、というような生半可なフローズン・ストロベリー・ダイキリが、次の瞬間
から、時代を軽々と跳躍するグレイトなカクテルに変貌を遂げていました。おおお・・私もグレ
イトの仲間入りか、と。
ここでグレイトなカクテルと、ベターなカクテルの違いを書き出して見ますと、
1) マスターのフローズン・ストロベリー・ダイキリは、
先ず、美味しい。カクテルで一番重要な事は、あたりまえですがおいしい事です。
美味しいとは、材料がきちんと生かされていて無駄がない。ひとつひとつの材料が突出
する事はなく、全ての材料のいい部分がいい影響を及ぼしあい、正にこうでなくては、と
思わずにいられない、正しいものに出会う感動を伴う。一度このようなものを味わうと、そ
れに及ばないものは受け入れられなくなる。また、誰が飲んでもその素晴らしさが理解
できる(お酒をお召しになる方が前提ですが)。フローズン・カクテルに関して特に顕著で
あり重要な要素のひとつ、材料が全く分離をしない。フローズン・カクテルは暑い場所で
飲むことが、初期に創作された時点での大前提と考えるなら、材料が分離をし見る間に
水っぽくなる状態は、そのドリンクの目的を達成していない。
2) 我がフローズン・ストロベリー・ダイキリ(2ヶ月前)
良くも悪くもベターという言葉がこれ程にしっくりくるものはない、というほど中庸(揶揄を
含めつつ)。この手のものはレシピを少し変化させてみた場合に、よく馬脚をあらわす。
お、こっちもなかなか悪くないんじゃないの、というように。印象に残らない。顔はなんと
なく思い浮かぶが、全然名前が思い出せない昔の同級生のような味わい(まあ、用事が
ないわけです)。直ぐに材料が分離を始める。
とまあ、このような歴然とした違いがあるのですが、この話の重要なポイントは、2ヶ月前の私のフロー
ズン・ダイキリでさえ、普通の基準からすれば充分に及第点はある、という事実です。実際に、今まで
の私が作りますフローズン・バナナ・ダイキリの、ヘヴィー・ユーザーにブレークスルー後のバナキリを
お試しいただいたところ、今までは以前のバナキリが最高の味だと思っていたが、これは根本的にもの
が違う、素晴らしい、本物に出会えて光栄だ、とありがたい讃辞を頂戴しました。
ブレークスルーなどと暢気な事を言っておりますが、7年間いろいろと考え、試していたフローズン・ダイ
キリでしたが挙句、指摘をされるまでやはり、たどり着くにも程遠い道のりを残していたことに、べつに
忸怩たる思いなんかは是っぱかしもありませんが、いかに物事の高みを手にする事が困難か、ただ
ほとんど感心するばかりでした。
グレン・グールドがリヒャルト・シュトラウスの音楽に対して、このような言葉を残しています。
自分自身が生きる時代の一部にとりこまれないことによって自分自身の時代をより豊かにし、
どの世代にも属さないことによってあらゆる世代の代弁をする人間の事例をわれわれに示して
いる。それは個性の最高の証明であり、人間の時代が押しつける一律性に縛られることなく、
自分自身の時代統合法を創造できることの証明である。
Glenn Gould, "An Argument for Strauss."High Fidelity 12 (march 1962)
グレン・グールド著作集 1 バッハからブーレーズへ
これは、一人の弟子としてではなく、一人のバーテンダーとしての純粋な意見なのですが、
我が師匠のカクテルにも全くあてはまる言葉ではないか、と思うのです。どのような世界に
おいても、価値あるものの共通する部分は、人の心を動かさずにはおかない事と、その行為
に秘められたいかに遠い射程であるかというその点において、不動とも言える意志や、冷静
ではあるけれど強く、熱い情熱を孕んでいるからこそ、その高みへの跳躍を果たし他を隔絶
しているその当の事実が人の心を奪うのであろうと、人ごとのように思うのです。
これからすっかり夏が始まるわけですが、暑い季節には、暑い地方のお酒が美味しくなります。
ベスパというと、シックなホテルのバーをイメージされる方がどちらかと言えば多いようですが、
実を言うと、我らがマスターは20代の頃にハワイでバーテンダーの修行をしていた時期があり
トロピカル・カクテルの味は、カラカウア通りのど真ん中です。それ故なのですが、日本のカクテル
ブックに出てくるフローズン・カクテルとは少々趣を異にします。ご機会が御座いましたら是非、
その味わいをお試しください。あるいは、ワイキキの風を。
只今の時期おすすめのフローズン・ピーチ・ダイキリ(ブレークスルー後なのでおいしい)
Bar Vespa Kumamoto
投稿者 vespa : 2009年7月23日 17:00